第4段『萩台町』

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【萩台町】

 

 

モノレール下。十九時三十分の萩台町から花見川区までの道のり。
いつもの時間といつもの場所。なんら変わらぬ日常の一コマである。時間が過ぎて行くにつれて「僕」の心が穏やかでは無くなっていることを除けば。 僕が「僕」と表現をする事について、僕を知っている人からすると、「なんだコイツ」と思うだろう。逆の立場であれば、僕もそう思う。 僕の本来の姿は「俺」なのだ。 だが、俺は文章を書くのに適していない一面を見せてしまう。 以前、青いマスクがトレードマークの青年と出会った。この青年は、我が強く、自分の考えが絶対として周りの意見に耳を貸さない、大変傲慢な男だった。 その青年は開口一番「絶対こうだから」宣言から始まり、自分のことしか話さずに、終いには「俺は〜」や「俺が〜」などと、明らかに考えを強要してくる節があった。 その様子を一番近くで見ていた僕は、「俺」という言葉に恐怖を覚え、俺という表現は自分の思いを相手に押し付けてしまう、一方通行になるようで怖くなってしまったのだ。 それ以来、僕は「俺」を捨てた。 俺は「僕」に生まれ変わったのだ。 時間は皆、平等に流れていると言うが、実際のところその言葉にリアリティを感じない。 何かに期限や制限時間がある人は尚更、平等では無いと感じてしまうだろう。 今の僕がそうかも知れない。 実は、僕にも制限時間が迫っているのだ。 この人生は何かを捨て、何かを得る経験の繰り返しであると考えている。今回、僕の制限時間の先にあるものは「別れ」である。 「情などいらない」「仕事に依存するな」と教えられて育った僕だか、情が芽生えてしまったことも。離れたくないと思ってしまったことも。その気持ちも全て真摯に受け止めたい。 ココでは何度も何度も何度も心が揺れる経験をさせてもらった。改めて人間で良かったと思えた。 今日もミニストップの脇道は暗くて狭い。 車が一台分しか通れないので、対向車が通り過ぎるまで待つ。 六人が五人になり、五人が四人になり、遂に最後の一人になった。自慢の赤い車からどんどん降りていく。 「ありがとうございましたー!」という当たり前に聞けていた言葉が、この先の人生であと何回聞くことができるのだろう。 僕がここまで来れたのは彼らが無邪気に浴びせてくれた「ありがとうございましたー!」というパワーのおかげだ。 約五年に渡り貯め続けた魔法のフレーズが、ここ最近は身体から徐々に抜けて、身体の外に出てしまっている。 一粒、また一粒。どうやら一人になったときに「ありがとうございましたー!」の粒が出てくるらしい。 出しすぎてまともに前が見えなくなることもある。そんな夜ばかりだ。 迫り来る制限時間に怯えながら、今日も机の上で文章を書き続けている。 「僕」机の上には、紙とボールペンと青いマクスが置いてある。    スナ。