第6段『似合う色』

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【似合う色】

---「では、自分に似合う色は?」
---「・・・」
無事故無違反でよく終われた。誰も傷つけずによく終われた。 最後の一人になったとき、やっと口を開けた。なんて言ったかな。よく覚えていないけど、「弟はお兄ちゃんのことをよく見てるから…」みたいな話をした気がする。 目を見て話すことが怖くて、表情で気持ちを見透かされないように背中を丸めて言葉を伝えた。目的地のテニスコートの駐車場は案外近い。何を貰ったら嬉しいのか? 僕はその人たちの時間を頂いていることが嬉しくて嬉しくて本当に嬉しくてたまらない。 僕ために何が良いか考えてくれたこと。そこまで足を運んで選んでくれたこと。 僕のために大事なお金を使ってくれたこと。僕のために手紙を書いてくれたこと。何を書こうか迷ってくれたこと。僕のために会いに来てくれたこと。僕のために泣いてくれたこと。この感動はなんとも形容しがたい。 僕は自分の想いをあまり口にしない。表情にも見せないタイプの人間だと思う。 その真意は、いろんな角度から考えている事があったり、本当に何も考えていなかったり、恥ずかしくて伝えられなかったりすることがある。 今日の帰りは泣いた。
「みんなと笑いまくったよな」
「みんなと川で遊んだよな」
「みんなで喜んだよな」
「みんな大人になったよな』
彼らが成長して旅立つことは嬉しい。だけど、みんなから去っていくのは嫌いじゃない限り辛い。 ウィンカーをいつ戻したのだろう。覚えていない。
この世界にはいろんな色があることを知った。 そして、この世界では定期的に自分たちの色をかけて闘うときがある。 色を語る時には「嫌いな色」や「自分に似合う色」「ラッキーカラー」と呼ばれるジャンルもある。占いでは色だけで今日一日の運勢が決まってしまう。
僕の五年間は終わったんだ。 一番印象に残っていることか? 何もないよ。ほんとうに。 終わってみれば分かる。全部だよ。全部が一番でそれ以上はないんだよ。
今ならハッキリこう答えられる。
自分に似合う色は・・・赤と白しかない。
みんなに出逢えて幸運でした。